「学識」に関する比較研究 文献調査(間篠)

「学識」という言葉にこだわらず、「大学における知」をテーマに下記3冊をとりあげます。

・吉見俊哉『大学とは何か』岩波書店、2011年。
明治期の日本の大学を考えたときの、基本文献というか、導入のための文献として、第Ⅲ章「学知を移植する帝国」を挙げます(全員で検討するというよりは、読んでおく、というだけでもよいかなと思います)。ここに書かれていたアカデミズムとジャーナリズムの乖離や合一の問題を突っ込んで検討していくのも、大学における知を考える上で有意義なのではないかと思います。

・竹内洋『大衆モダニズムの夢の跡――彷徨する「教養」と大学』新曜社、2001年。
大衆化の中で「大学」や「教養」が憧れの対象ではなくなり色あせていく様を描いています。特に第3章にあたる「大学の迷走と知の転換」が今回のテーマに合致するかと思います。「学識」という言葉からは少し離れてしまうかもしれませんが、「学識」を突っ込んで検討しようとした場合、「教養」の問題は避けられないだろうと思い、挙げてみました。

・マックス・ウェーバー(尾高邦雄訳)『職業としての学問』岩波書店、1980年。
「大学における知」を考える際、「教養」と同様に「学問」も重要な意味を持ってくると思います。「学問」を考えるための基本文献として、挙げてみます。文庫本であり、あまり長くもありませんし、共通に読んでおくものとしてよいかなと。なお、2009年にはプレジデント社から三浦展訳が、日経BP社から中山元訳が、それぞれ刊行されています。

以上です。

「学識」に関する比較研究 文献調査(原)

今回は以下の3冊を調べました。

・有本章編著.『変貌する日本の大学教授職』.玉川大学出版部.2008.

先週の授業で書名を挙げたものです。単純に”scholarship”の訳語として「学識」を用いている。参考になりそうなのは、序章、「1 研究の視点」内の「大学教授職とは何か」(p.14-)および「6 大学教授職の変化」(p.29-)。特にp.31では、「アメリカでは学識の統合を要請する動きが生じた同じ時期に、日本ではFDの制度化に見られるように、研究と教育を統合する学識観よりも分断する方向への動きが強まった」としている。

 

・岩田弘三.『近代日本の大学教授職』.玉川大学出版部.2011.

こちらも同じく先週の授業で書名を挙げたものですが、制度論中心の内容で、大学教授論・学識論等の概念的問題は扱っていないようです。ただし戦前のことを調べるにあたっては、バックグラウンドを調べる際に有用かと思われます。

 

・寺崎昌男.『大学は歴史の思想で変わる』.東信堂.2006.

有本同様、”scholarship”の訳語として「学識」を充てている。第3章ではBoyerのものも含め4つの大学教授論を紹介しており、「日本に比べ、やはりアメリカにおけるその探求は相当に進んだものである」としている。日本の場合、このような探求が進みうるような社会的背景等の「条件はほとんどなかった」ために、「旧制時代の「大学教授」の歴史的イメージが手つかずのまま残存した」と述べている。第1章・第2章のFD関連の論考も参考になりそう。

 

ひとまず三田にある日本の大学(教員)論関係の蔵書を1/3ほど調べてみたところ、やはり「学識」をテーマに章を割いている書籍も非常に少なく、索引に「学識」という語が出てくることも稀でした。ただ寺崎(2006)にあるように、FD論の文脈で「学識」に触れることは多そうなので、その辺を突っ込んで見るのもありかと思います。まだ全然見れていませんが、ひとまず今日の時点のものをアップします。

D2 原

Chapter 2 論点

Chapter 2の論点です。
今回は本文の内容が長く、発表に時間がかかってしまうと班の中で判断したため、11期12期の1限部と相談した上で議論は資料無しでおこないたいと思います。ご了承ください。

 

論点
「昨今の個性重視の教育ブームは本当にいいものだと言えるだろうか?」

論点に至るまで
本章:教育哲学を取り扱った内容

アジアではいい成績を修めることが教育の最重要課題とされている。
アメリカでは子どもの個性を最大限に引き出すことが教育の目標とされている。
(これらは、それぞれの文化の哲学的思想の違いによるもの。
・アジアの儒教的価値観では、努力さえすれば高い成果をあげられると考えられており、その教育的成果によって社会的階級をあがっていけるとされている。
・アジアの親が子どもに対して設定する高い目標を越えさせることも、子どもの自尊心には必要。
アメリカではそうではない。)

⇒この考え方は今の日本においても受け継がれていると考えられる。
それを踏まえると、昨今の個性重視の教育ブームは本当にいいものだと言えるのだろうか?
今の教育観は日本(アジア)のいい教育観を損なうようなものになっていないだろうか?

論点へ。

 

よろしくお願いいたします。

春課題:学部ゼミ新4年生(11期生=2012年度3年生)

提 出

2013年4月23日(火)
学部新4年生は、期日までに、以下の課題論文(卒論草稿)を本サイトの「メディア」にアップロードしてください(ファイル形式は、原則としてMS -Word文書ファイルとする)。

課題論文

以下の内容を、すべて含むものとします。

1.テーマ(仮タイトル)=内容を的確にあらわし、かつ魅力的なもの

2.アブストラクト=ねらい・方法・概要などを1200字以内にまとめる

3.プロット=目次にあたる構成案

4.ラフ・ドラフト(20,000字程度)=いずれかの章もしくは全体についての草稿

5.参考文献一覧

<論文の書き方>に関する参考文献

※レポート(論文)の執筆にあたっては、必ず論文の書き方についての参考書を参照し、形式・内容の両面において学術論文の水準を満たすこと。また必要に応じて、The Craft of Researchを復習すること。
1.斉藤孝・西岡達裕『学術論文の技法』【新訂版】、日本エディタースクール出版部、2005。
2.櫻井雅夫『レポート・論文の書き方 上級』慶應義塾出版会、1998。
3.白井利明・高橋一郎『よくわかる卒論の書き方』ミネルヴァ書房、2008。
4.高崎みどり編著『大学生のための「論文」執筆の手引―卒論・レポート・演習発表の乗り切り方―』秀和システム、2010。
5.花井等・若松篤『論文の書き方マニュアル―ステップ式リサーチ戦略のすすめ―』有斐閣アルマ、1997。
6.戸田山和久『論文の教室―レポートから卒論まで―』NHKブックス、2002。

なお、上記参考文献は、あくまで論文執筆のための「参考」書である。必ずしたがうべきマニュアルのように扱うことのないように、注意すること。

註や文献の表記の仕方

※引用・参考文献の出典の表記の仕方には、大きく2種類ある。これらの方式を混合させないこと。
1.脚注/巻・章・節末注(Notes and bibliography)方式:本文中の該当箇所に右肩に小さく番号をつけ(括弧をつけることもある)、それに対応して注をつける。
2.著者名・発行年(The author-date system)方式:本文中の該当箇所に(著者名 発行年、頁数)を入れ込み、巻末に参考文献一覧をつけ、照合可能とする。文献出典以外の注は、1と同様の方式でつける。
なお表記方法の細かい点については、<論文の書き方>の本でも必ずしも一致していないところもある。一つの論文のなかで、整合性(統一)がとれていればよい。

※英文文献の表記に関しては、The Chicago Manual of Style: The Essenntial Guide for Writers, Editors, and Publishers. 15th edition. Chicago: The University of Chicago Press, 2003. の主として16-17章(pp.593-754)を参照すること(最新版は、16th edition)。上記の1と2の区別についても詳細な約束事についての記述がある。それらは、日本語の註 や文献表記にもある程度応用できる。(大学院進学予定者は、一度は目を通しておくこと。)現在は、The Chicago Manual of Style Online (http://www.chicagomanualofstyle.org/home.html)としても、手軽に利用できる。

以上

【大学院ゼミ】ポスト・ボイヤーの大学教授職論研究24 先行研究・文献のまとめ(間篠)

<Post-Boyerのscholarship論に関する先行研究>

・Boyerを足がかりに大学教授について論ずるもの(Boyer(1990)の紹介を含む)

坂井, 昭宏. 2011. “教育=研究一体性論の再検討―大学教員のアイデンティティ―.” 桜美林論考.人文研究 2: 17-30.

寺崎, 昌男. 2005. “大学焦眉の課題と教員の役割―専門職化と新しい課題―.” RIHE 83: 39-53.

絹川, 正吉. 2006. “研究大学における教養教育.” 名古屋高等教育研究 (6): 171-194.

飯吉, 弘子. 2007. “教育と研究の「古典的葛藤」を超える道–先行研究の整理と問題提起.” 大学教育学会誌 29 (2): 46-52.

鳥居, 朋子. 2007. “学識としての教育のとらえ直しと教師集団による組織的な教育実践の改善―米国インディアナ大学におけるScholarship of Teaching and Learning(SOTL) ―.” RIHE 91: 39-47.

別府,昭郎. 2005. 大学教授の職業倫理. 東信堂.

有本,章. 2005. 大学教授とFD―アメリカと日本―. 東信堂.

 

・日本におけるSoTL研究(SoTLの紹介含む)

吉良, 直. 2010. “米国大学のCASTLプログラムに関する研究―3教授の実践の比較考察からの示唆―.” 名古屋高等教育研究 (10): 97-116.

鳥居, 朋子. 2007. “学識としての教育のとらえ直しと教師集団による組織的な教育実践の改善―米国インディアナ大学におけるScholarship of Teaching and Learning(SOTL) ―.” RIHE 91: 39-47.

飯吉, 透. 2002. “カーネギー財団の試み―知的テクノロジーと教授実践の改善(上).” アルカディア学報 (66).

中島, 英博. 2006. “カーネギー財団における Scholarship of Teaching の変遷.” In 学生・教師の満足度を高めるためのFD組織化の方法論に関する調査研究, edited by 達也 夏目, 161-165: 名古屋大学高等教育研究センター.

 

・日本におけるSoE研究(SoEの紹介含む)

村上, むつ子. 2011a. “サービス・ラーニングの新しい潮流 <上> 「学問性」と「社会との関わり」.” 教育学術新聞 (2432).

———. 2011b. “サービス・ラーニングの新しい潮流 <下> 「学問性」と「社会との関わり」.” 教育学術新聞 (2435).

堀田, のぞみ. 2012. 研究とアウトリーチ活動─米国における大学・科学コミュニティの取組み─. In 国による研究開発の推進―大学・公的研究機関を中心に― 科学技術に関する調査プロジェクト : 調査報告書., ed. 国立国会図書館調査及び立法考査局, 243-251国立国会図書館調査及び立法考査局.

 

・海外におけるscholaraship研究(Boyer(1990)検討を含む)

Braxton, John M., William Thomas Luckey, and Patricia Helland. 2002. Institutionalizing a Broader View of Scholarship through Boyer’s Four Domains. San Francisco, CA: Jossey-Bass.

Paulsen, Michael B. and Kenneth A. Feldman. 1995. “Toward a Reconceptualization of Scholarship: A Human Action System with Functional Imperatives.” Journal of Higher Education 66 (6): 615-640.

Rice, R. Eugene. 2005. “Scholarship reconsidered”: History and context. In Faculty priorities reconsidered : Rewarding multiple forms of scholarship., eds. KerryAnn O’Meara, R. Eugene Rice, 17-31. San Francisco: Jossey-Bass.

———. 2005. The future of the scholarly work of faculty. In Faculty priorities reconsidered : Rewarding multiple forms of scholarship., eds. KerryAnn O’Meara, R. Eugene Rice, 303-312. San Francisco: Jossey-Bass.

———. 2002. Beyond scholarship reconsidered: Toward an enlarged vision of the scholarly work of faculty members. New Directions for Teaching and Learning 90: 7-17.

———. 1991. Toward a broader conception of scholarship: The american context. In Research and higher education : The united kingdom and the united states., eds. Thomas G. Whiston , Roger L. Geiger . Buckingham; Bristol, PA, USA: Society for Research into Higher Education & Open University Press.

Schön, Donald A. 1995. “The New Scholarship Requires a New Epistemology.” Change 27 (6): 26-34.

 

・SoTLを中心としたscholarship

Boshier, Roger. 2009. “Why is the Scholarship of Teaching and Learning such a Hard Sell?” Higher Education Research and Development 28 (1): 1-15.

Rice, R. Eugene. 2005. “”Scholarship Reconsidered”: History and Context.” In Faculty Priorities Reconsidered : Rewarding Multiple Forms of Scholarship, edited by KerryAnn O’Meara and R. Eugene Rice, 17-31. San Francisco: Jossey-Bass.

Hutchings, Pat and Lee S. Shulman. 1999. “The Scholarship of Teaching: New Elaborations, New Developments.” Change 31 (5): 10-15.

 

・SoEを中心としたscholarship

Rice, R. Eugene. 2002. Beyond scholarship reconsidered: Toward an enlarged vision of the scholarly work of faculty members. New Directions for Teaching and Learning 90: 7-17.

それが発展の「契機」(Tipping Point)か危険をはらんだ「山盛りの皿」(Overloaded Plate)かは置いておくとしても、Boyer(1990)は大学のファカルティが発展するための多くの変化のうちの一つとして位置づけることができると指摘している。ここでSoEは、scholarship of applicationの発展形として位置づけられている。

Barker, Derek. 2004. The scholarship of engagement: A taxonomy of five emerging practices. Journal of Higher Education Outreach and Engagement 9 (2): 123-37.

SoEの特徴を、①伝統的スカラーシップの諸側面の横断、②コミュニティとの協働による研究の厳密化、③コミュニティとの相互的な知の産出、にあるとした上で、その発言の形を5つに分類している。Scholarship of applicationの発展としてSoEを捉えるRiceとは考え方が異なる。

Colbeck, Carol L., and Patty Wharton Michael. 2006. The public scholarship: Reintegrating boyer’s four domains. New Directions for Institutional Research New Directions for Institutional Research 129: 7-19.

大学教授職の使命を、奉仕/応用/エンゲージメント、発見/研究、ティーチング/ラーニングの3つのグループに分ける。そして、これらを再統合するものとしてpublic sholarshipを提起している。ここではエンゲージメントは他の側面と同レベルのものとして理解される。ただ、筆者の中心的な関心は、研究やティーチングに比べて奉仕が重視されていない傾向にあるという点にある。この点を踏まえると、奉仕を拡大させつつscholarshipの各側面を統合しようという議論だと理解することができ、SoEの派生形(表現を変えたもの)として考えることができる。

Giles Jr., Dwight E. 2008. Understanding an emerging field of scholarship: Toward a research agenda for engaged, public scholarship. Journal of Higher Education Outreach and Engagement 12 (2): 97-106.

今 はSoEのもとに様々な活動があるが、明確な「大テント」をつくれる段階にはなく、無理に統一しようとするとSandmanのいう「definitional anarchy」の状態になってしまう。だた、「大テント」ができるとすれば、そこにサービス・ラーニングは含まれる。もう一度サービス・ラーニングに注目して議 論を行っていくべき、というのがGilesの意見。4つのスカラーシップの関係については言及していないが、スカラーシップを拡大したことでどこまでがスカラーシップなのかということが不明瞭になっている、ということがここから言えそう。

 

 

<背景を検討するうえで必要となりそうな資料>

・全体的に

有本, 章. 2011. 変貌する世界の大学教授職. 玉川大学出版部.

橋本, 鉱市. 2001. アメリカにおける大学教員―90年代の変容を中心として―. 学位研究(15) (11): 25-37.

 

・SoTLについて

Huber, Mary Taylor, and Sherwyn P. Morreale. 2002. Disciplinary styles in the scholarship of teaching and learning: Exploring common ground. Menlo Park, CA; Washington, DC: Carnegie Foundation for the Advancement of Teaching ; American Association for Higher Education.

 

・SoEについて

Jacoby, Barbara. 2009. Civic engagement in today’s higher education : An overview. In Civic engagement in higher education : Concepts and practices., eds. Barbara Jacoby and Associates, 5-30. San Francisco, CA: Jossey-Bass.

 

以上

【大学院ゼミ】ポスト・ボイヤーの大学教授職論研究23-2(1/18)議事録(原)

<4章概要>

・SoTLおよびSoEが州立大学を中心に展開してきた理由を、トロウ・モデルを援用して検討した結果、こうした議論はマス・ユニバーサル段階を担う州立大学にこそ必要な議論であっことがわかった。

・こうした議論に対応して、スカラーシップの用法も知識に関係するところから大学と関わる者すべてが持つべき態度・関心といったものまでを規定するようなもとなってきたため、この訳語を「学識」ではなく「大学人性」とすることを提唱した。

 

<改善点>

・SoTL/SoEの展開の中で、従来のDiscovery/Integrationを中心としたスカラーシップがどのように変容したかをより丁寧に検討するべき

全体の議論・今後の予定については1つ前の間篠さんの投稿を参照してください。